型にワックスを流す簡単なものでもワックスの種類や注ぐ温度、室温でキャンドルの出来栄えは全く違うものになってしまいます。何度も試行錯誤しているうちにベッキーのキャンドルノートは、細かく書きとめた文字でいっぱいになりました。そして、ベッキーの部屋は作ったキャンドルで壁一面が埋め尽くされてしまいました。
そんなベッキーはある時、転機を迎えます。親友から“キャンドル作りを教えてほしい”と頼まれたのです。ベッキーは、それを喜んで引き受けます。そのレッスンは、ベッキーがおばあちゃんから最初に教わったのと同じように、キャンドル作りの楽しさを知ってもらうことが目的でした。嬉しいことに、ベッキーのキャンドルレッスンは大評判。噂を聞いた友達がだんだん増えていき、ついにベッキーの生徒さんは100 名を超えました。学校では“キャンドルベッキー”と呼ばれ、ちょっとした有名人になっていました。いつの間にか、キャンドルの先生であるおばあちゃんからも独り立ちしたベッキーの中で一つの夢が膨らむようになってきます。
“キャンドルショップを作って、自分の作品をたくさんの人に見てもらいたい”そこで思い切って、“キャンドルショップを作りたい”とお父さんに相談してみるのですが、大反対されてしまいます。“お店を作るのはそんなに甘いことではない”そう、お父さんに諭されてしまうのです。一方で、3 年間頑張ったら相談にのってくれると約束してくれました。その約束を聞いて大喜びしたベッキーはその日以来、友達や近所の人たちからもらうレッスン代、両親からもらうお小遣い、そしてフリーマーケットでキャンドルを販売して手にしたお金をコツコツ貯金するようになります。と同時に、お父さんと一緒に世界中を旅して廻ります。アメリカ、メキシコ、カナダ。ヨーロッパは鉄道を乗り継ぎ10 カ国以上を見て回りました。その旅を通じて、ベッキーはまだ知らなかった新しい材料やキャンドルに出会い、益々創作意欲が増していきました。
ついに、お父さんとの約束から3 年以上経ったある日の週末、いつものようにキャンドル作りをしていたベッキーにお父さんはこう言ってくれます。
突然の事でびっくりするベッキーですが、すぐに状況を理解し、お父さんに抱きついて喜びます。来る日も来る日もキャンドル作りを一生懸命しているベッキーの姿を見ていたお父さんが、ベッキーに内緒で開店の準備を進めていてくれたのです。そして、そのお店の外観はベッキーがずっと前に描いていたスケッチを参考にした可愛いお店でした。ベッキーは開店に合わせて大切なお店のポリシーを考えました。
“自分で選んだ良質な材料だけを使う”“アイデアが詰まったキャンドルを子供のお小遣いで買えるようにする”“1 つ1つのキャンドルを真心を込めて作る”そんな思いを込めてベッキーは“Quality”“Innovation”“Sincerity”の三つの誓いを立てました。決して量産することは出来ないけど、心を込めて作るキャンドルたち。そんなベッキーのこだわりがたくさん詰まったキャンドルショップがいよいよオープンを迎えます。
ベッキーの夢はまだまだ始まったばかりです。念願のショップをオープンさせたベッキーの次の目標は漠然とはしているけれど、自分が作ったキャンドルを世界中に届けられるようになること。そして、その目標を叶えるために世界中を飛び回る日々がまた始まります。
次の目標が少しずつ見えてきたベッキーは、新作キャンドル作りに取り組むようになります。休日には美術館や図書館に通い、絵画や彫刻などの芸術作品を参考にしたり、カラーリングやデザインの勉強をしました。晴れた日には緑に囲まれた近所の公園を散歩するのが大好きでした。青い空の下で、のんびりと雲を見ながら歩くと心身ともリラックスが出来るし、パワーが沸いてくる気がするのでした。そして、何よりも仲の良い友だちとミュージカルや映画鑑賞に出かけ、恋愛や日常のたわいもない会話を楽しむのがベッキーにとっては何よりも貴重な時間でした。そんな日々を過ごし、あっという間に時が過ぎていきます。